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股関節深層筋:外閉鎖筋

股関節深層筋シリーズ第2弾は外閉鎖筋です。

 

 解剖学的には、短外旋筋群の1つとされますが、股関節外旋作用だけでなく非常にユニークな機能を持っている可能性がある筋です。

 

まずは、外閉鎖筋の基本情報をまとめていきます。

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  上記の通り、外閉鎖筋は、閉鎖膜の外面とその周囲の骨から起始します。その後、寛骨臼下縁をスリングのように走行し、ちょうど大腿骨頭の下部で筋腱移行部となります。

 

 寛骨臼蓋縁と筋との間には、滑液包があります。股関節が外転・外旋したとき、外閉鎖筋と寛骨臼蓋縁が最も近づくことが観察されています(Gudena et al., 2015)。

 この滑液包は、臼蓋下での外閉鎖筋の滑走を滑らかにする一方で、過度な摩擦により炎症が起こることで、殿部深部の疼痛を引き起こす可能性があります

 

 外閉鎖筋は転子窩だけでなく、後方関節包にも停止し、関節包を補強しすることで、股関節の安定性にも寄与しています。(Gudena et al., 2015)。

 

 また、Solomonら(2010)は、後方アプローチによる人工股関節全置換術(THA)において、梨状筋と外閉鎖筋が脱臼リスクを減らすために重要であると報告しています。このことから、関節包を補強するだけでなく、外閉鎖筋事自体にも、関節を安定化させるための機能があることが示唆されています。

 

次に、筋の作用についてみていきましょう。

 解剖学的な肢位では、屈曲・内転・外転の作用を持ち、特に内転方向へのモーメントアームが長いため、内転作用が強いとされています。

 

 Vaabakkenら(2015)は、筋の長さとモーメントアームの関係から、最も筋力が発揮できる肢位と、その運動方向について報告しています。

 

 彼らの報告によると、外閉鎖筋が筋力を発揮し得る範囲は、股関節伸展5°から屈曲30°の間であり、軽度伸展位のときに最大の筋力を発揮します。そしてこのとき、外旋ではなく屈曲および内転への運動方向に有効なモーメントアームを持っていることが分かりました。

 

 このことから、外閉鎖筋は、股関節の安定性を高めるだけでなく、歩行時に下肢を振り出す役割を担っていると考えられます。特に、遊脚初期に大きな筋力を発揮している可能性があります。

 

 変形性股関節症患者の歩行やアスリートの走動作において、立脚終期から遊脚期に切り替わる瞬間に殿部の疼痛を訴える方がいます。これは、外閉鎖筋がこのタイミングで働くため、筋実質もしくは、前述した滑液包に負荷がかかり生じている可能性がありそうです。

 

【股関節深層筋シリーズ】

小殿筋

 

<文献>

R. Gudena, A. Alzahrani et al.: The anatomy and function of the obturator externus. Hip Int. 2015; 25: 424-427.

Solomon LB, Lee YC et al.: Anatomy of piriformis, obturator internus and obturator externus: implications for the posterior surgical approach to the hip. J Bone Joint Surg Br. 2010; 92: 1317-1324.

K. Vaarbakken, H Steen et al.: Primary functional of the quadratus femoris and obturator externus muscles indicated from lenghs and moment arms measured in mobilized cadavers. 2015; 30: 231-237.