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股関節不安定性②:3つの不安定性

 股関節不安定性、第2回は不安定性が生じる原因を「外傷性」・「非外傷性」・「医原性」の3つに分けて説明していきたいと思います。

 

①外傷性股関節不安定性の発生機序と診断(文献1~3)

 外傷性股関節不安定性(Traumatic Hip Instability)の場合、患者さんは明確な亜脱臼・脱臼の既往歴があります。

 

 これは、交通事故のような高エネルギー外傷や、運動中に起こる低エネルギー損傷によって引き起こされます。

 

 運動中の亜脱臼・脱臼は、膝関節屈曲・股関節内転位で転倒した場合や、股関節伸展・外旋位で後方から衝撃を受けた場合に生じることが多く、サッカー・スキー・ラグビー・自転車・ジョギング・バスケットボール等の競技での受傷が報告されています。

 

 股関節脱臼の患者さんは、一般的に股関節屈曲・内転・内旋位を呈しています。また、後方脱臼においては,坐骨神経麻痺の症状を呈する場合があります。

 

 画像所見では、股関節の急性外傷性骨折や剥離骨折、恥骨炎、関節の退行変性(慢性例)といった所見が得られることがあるため、併せて注意が必要です。

 

 外傷性股関節亜脱臼は、脱臼と同様の受傷起点をもちますが、より少ない外力により生じるため、レントゲン所見は正常もしくは、特別な変化を示さないことがあります。そのため、股関節捻挫や挫傷といった誤診につながる恐れがあります。

 

 また、脱臼・亜脱臼の両者とも大腿骨頭壊死症(脱臼の場合10~20%)へ発展する恐れがあるため、受傷3か月後にMRI検査を実施することが推奨されています。

 

②非外傷性股関節不安定性の発生機序と診断

 非外傷性股関節不安定性(Atraumatic Hip Instability)は、運動選手に認められることが多く、明確な外傷の既往はありません

 

 非外傷性股関節不安定性の構造的な原因として、全身弛緩性、Marfan症候群やEhlers-Danlos症候群の様なコラーゲン代謝異常が確認された場合は、まず原疾患に対する治療を行う必要があります。

 

    また、非外傷性股関節不安定性では、診断上問題のない程度の軽度な臼蓋形成不全が存在する場合があります

 

 発生要因としては、スポーツ(ゴルフ・テニス・サッカー・フィギュアスケートなど)における、軸圧負荷を伴った繰り返しの外旋や過度な伸展動作による、関節包靭帯・関節唇などの関節周囲組織の微細損傷が原因として考えられています(文献3)。

 

 寛骨臼蓋の中で大腿骨頭の副運動が起こりますが、繰り返しの力により、腸骨大腿靭帯(IFL)や関節唇が損傷を受けると、大腿骨頭は寛骨臼蓋の中で大きく並進運動を行うようになります。それが有痛性の関節唇損傷や関節包の弛緩,関節の不安定性を引き起こすとされています(文献1、2、4)。

 

 非外傷性股関節不安定性の臨床所見として、Shu(文献4)らは問診や疼痛誘発テストを用いて再現痛を評価すること、clickingやsnapping、popping、catchingなどの症状を聞き出すことが必要であるとしています。

 

 また、非外傷性股関節不安定性を訴える患者では、股関節の不安定感や骨頭が臼蓋から抜けるような感覚を訴えることがあります。

 

    さらに、股関節のインピンジメント症状も多く認められます。

 

 非外傷性股関節不安定性に対しては、上記のような理学所見を組み合わせ診断する必要があり、画像所見が有用である外傷性股関節不安定性と異なり診断は難しいとされています。

 

 また、Matthewら(文献1)は、IFLの弛緩により、背臥位で股関節屈曲0°のときの外旋可動域が対側に比して増大するとしています(Log Roll test)。さらに、不安感を伴う過剰な股関節伸展可動域を呈すると述べています。

 

 Shindleら(文献2)は、上記に加え,他動的な股関節伸展運動でも疼痛が誘発されると述べています。また、IFLや関節唇の損傷により、腸腰筋などの動的なstabilizerのoveruseが起こり、股関節屈曲拘縮を呈することがあるとしています

 

 さらに、核磁気共鳴関節造影(Magnetic Resonance Arthrograph;MRA)などにより、損傷した関節唇などの関節周囲軟部組織を認めることがあります。

 

 Dombら(文献5)は、臨床的に不安定性が疑われた場合や、非侵襲的な評価方法で判断できなかった場合、関節鏡を用いた評価が有用であると述べています。

 

 不安定性がある場合、関節鏡視下にて、関節は容易に牽引することができ、また大腿骨頭の臼蓋からの逸脱を観察することができます。さらに、関節包靭帯の損傷や菲薄化が認められます。

 

 以上をまとめると、非外傷性股関節不安定は、問診や理学所見を組み合わせて判断します。画像所見を用いて視覚的に診断を行うため方法は難しいと考えられています。

 

③医原性股関節不安定性

 近年、股関節唇損傷や大腿臼蓋インピンジメント(Femoro-Acetabular Impingement;FAI)、その他の股関節内病変に対し、股関節鏡視下術が施行されており、良好な術後の短期・中期成績が報告されています(文献4)。

 

 しかし、節鏡視下術が増えるにつれ、手術に伴う過剰な関節包切開や切離により、術後に股関節不安定性を呈するという報告が散見されるようになってきました(文献5)。

 

 そのため現在では、関節鏡視下術後に、切開した関節包の縫合を十分に行うことが必要とされています。過去に鏡視下術を受けことがあるか、患者さんの既往歴を確認することが必要です。

 

<文献>

 (1) Matthew V. Smith, Jon K. Sekiya.: Hip instability. Sports Med Arthrosc Rev. 2010: 18 (2); 108-112.

(2) Michael K. Shindle, Anli S. Ranawat et l.: Diagnosis and managment of traumatic and atraumatic hip instability in the athletic ptient. Clin Sports Med. 2006: 25; 309-326.

(3) Michael R. Torry, Mara L. Schenker et al.: Neuromuscular hip biomechanics and pathology in the athlete. Clin Sports Med. 2006: 25; 179-197.

(4) Beatrice Shu, Marc R. Safran.: Hip instability: Anatomic and clinicl considerations of traumatic and atraumatic instability. Clin Sports Med. 2011: 30; 349-367.

(5) Benjamin G. Domb, Marc J. Philippon, et al.: Arthroscpic capsulotomy, capsular repair, and capsular plication of the hi: Relation to atraumatic instability. Arthroscopy. 2013: 29 (1); 162-173.