股関節深層筋:内閉鎖筋
股関節深層筋シリーズ第3弾は内閉鎖筋です。
前回の外閉鎖筋同様、股関節の短外旋筋群の1つです。股関節のインナーマッスルはどの筋も特徴的な働きをしていますが、この内閉鎖筋も例外ではありません。
まずは、内閉鎖筋の基本情報についておさらいしていきます。
解剖学的な肢位において、この筋は伸展(0.3cm)、内転(0.7cm)、外旋方向(3.2cm)のモーメントアームを有しています。短外旋筋群とされるだけあり、外旋方向に最もトルクを発揮しやすい筋です。
では、実際の筋活動はどうでしょうか?
内閉鎖筋の筋活動を針筋電図を用いて調べた、Hodgesら(2014)の研究を紹介していきながら、内閉鎖筋の機能を考察していきたいと思います。
まず、内閉鎖筋の筋活動量についてです。
筋活動量は、伸展>外旋>外転の順であり、もっとも筋活動量が大きかったのは、外旋ではなく伸展でした。
この理由として、内閉鎖筋は伸展方向へのモーメントアームが短いため、トルクを生み出すのには不利な状態です。したがって、この力学的な不利を補うために、運動単位を多く動員させた結果、EMGにおける筋活動量が大きくなったと考えられます。
一方、外旋では、長いモーメントアームを持っており、力学的に有利な構造となっているため、主動作筋として強く活動した可能性が考えられます。
さて、次は運動方向ごとの、筋の動員パターンです。
上記の図Aでは、各運動を行った際に活動が観察された順番を平均値で表したものです。一方、図Bは複数回繰り返し測定した際に、1番目~4番目に活動が観察されたのはそれぞれ何%かをしめしたものです。
ここから分かるように、内閉鎖筋は特に、外転、外旋運動時にいち早く活動していることが分かります。
このように、早い活動が行える理由として、
①閾値の低い小さな運動単位が多いこと(ネコでは遅筋線維が多く含まれている:
Roy et al., 1997)
②股関節を安定化させるために、早期から活動していることが挙げられます。
解剖学的肢位において内転方向へのモーメントアームを持つ内閉鎖筋。この筋の走行を考えると、骨頭を臼蓋に押し付けるだけでなく、骨頭を下制させる機能がありそうです。
外転や外旋の主動作筋である中殿筋が骨頭を上方に引き上げる前に活動することで、求心を保ったスムーズな運動を可能にしている可能性が考えられます。
この先行収縮や求心位の保持は、肩関節における棘上筋、棘下筋の機能と類似していますね。
内閉鎖筋の実際の機能については未解明な部分が多く残されています。今後も情報を更新していくつもりです。
【股関節深層筋シリーズ】
・小殿筋
・外閉鎖筋
<文献>
1) PW. Hodges, L McLean et al.: Insight into the functoin of the obturator internus in humans: Observations with development and validation of an electromyography recording technique. J Electromyogr Kines. 2014; 24: 489-496.
2) Roy RR, Kim JA et al.: Architectural and histochemical properties of cat hip 'cuff muscles. Acta anatomica. 1997; 159: 136-46.