リハきそ

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鎮痛剤の種類と作用機序

形外科疾患で最も多い症状は「痛み」でしょう。 

 

 理学療法が処方される前から何らかの鎮痛剤を処方されている方がほとんどだと思います。

 

 したがって、理学療法士は、鎮痛剤の種類、作用機序、効果が続く時間、副作用などなど薬剤に関する知識をしっかりと身に着けておく必要があります。

 

 実際、患者さんが今使用している鎮痛剤の効果があるかないかが分かるだけでも、疼痛のメカニズムを考えていく上で有益な情報になります。

 

 また、鎮痛剤を上手に利用することで、理学療法時の疼痛を軽減させることができ、効果的な治療を提供することができるようになります。

<アウトライン>

 

痛薬の種類

 

 

 よく処方される鎮痛薬は

 などが挙げられます。成分やよく処方されている商品名をまとめたものが以下の表です(文献3)

 

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 ここからは、分類別に詳しくみていこうと思います。

 

ステロイド性抗炎症薬 NSAIDs

 日常的によく使われているNSAIDs。その名の通り、組織損傷などに伴う炎症性の疼痛に効果がある薬です。

 

 抗炎症薬の作用機序を知るためには、まず炎症によって出現する発痛物質がどのような過程を経て産生されるのか理解しておく必要があります。

 

(1)アラキドン酸カスケード 

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  組織損傷により炎症が起こると、細胞内でカルシウムイオンの濃度が高くなります。これにより、ホスフォリパーゼA2(PLA2)と呼ばれる酵素が活性化します。

 

 PLA2の触媒効果により、細胞膜のリン脂質からアラキドン酸が産生されます。ここにシクロオキシナーゼ(cyclooxygenase;COX)という酵素が作用すると、プロスタグランジン(PG)が生成されます。

 

 一方、組織損傷により起こった出血に対し、血液凝固作用が働きます。この時、高分子キニノーゲンと呼ばれる物質が産生され、そこから炎症性発痛物質の代表格であるブラジキニン(BK)が産出されます。

 

 さきほどのアラキドン酸カスケードで生成されたPGの存在下では、BKによる発痛作用が増強されてしまうのです。

 

(2)NSAIDsの作用

 

 使用頻度の高いロキソプロフェンナトリウム水和物(商品名:ロキソニンなど)は、アラキドン酸カスケードにおけるCOX-2の活性を阻害することで、PGの産生を抑制します。

 

 これにより、鎮痛効果を発揮しているわけです。しかし、発痛物質の大本であるBKの産生を抑制することはありません。

 

 また、BK以外にもセロトニン(血小板由来)ヒスタミン(肥満細胞由来)といった侵害受容器を刺激する炎症メディエーターに対してもNSAIDsは作用しないため、完全な除痛を得ることは叶いません。

 

 ロキソニンの副作用として胃腸障害が挙げられていますね。この理由としては、COX-1と呼ばれる、COXのサブタイプの作用も併せて抑制されてしまうためです。

 

 COX-1は胃腸や腎臓、血小板などで常時働き、これらの組織保護に一役買っています

 

 このように、ロキソニンはCOXをまとめて抑制してしまいます。そこで登場したのが、セレコキシブ(商品名:セレコックス)やメロキシカム(商品名:モービック)と呼ばれる、COX-2特異的阻害薬です。

 

 その名の通り、これらの鎮痛剤はアラキドン酸カスケードで作用するCOX-2を選択的に抑制するため、副作用が少ないとされています。

 

 そのほかのNSAIDsとして、ジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレンなど)やインドメタシン(商品名:イドメシン、インテバンなど)が挙げられます。

 

 これらの鎮痛剤は、PGを産生するアラキドン酸カスケードとは別経路で生成されるロイコトリエンの作用を抑制します。

 

 ロイコトリエンは、気管支を収縮させ気管支喘息を引き起こしたり、白血球の遊走作用(損傷部位に移動すること)を強化し、炎症を惹起させます。

 

 以上で見てきたように、NSAIDsと分類される鎮痛剤でも、その作用機序は異なります。

 

テロイド性抗炎症薬

 副腎皮質ホルモンである、糖質コルチコイド鉱質コルチコイドと同じような作用をもつ人工的な化合物です。

 

 ステロイド抗炎症薬は、NSAIDsとは異なり、アラキドン酸カスケードの中のホスフォリパーゼA2(PLA2)の活性を抑制することで、プロスタグランジン(PG)の産生を抑えます。

 

 さらに、好中球やマクロファージの活性を抑えることで、炎症性サイトカイン(免疫系や炎症の調整に関わる、細胞間情報伝達で重要な役割を果たすたんぱく質の産生を抑制します。

 

 これらの作用により、高い鎮痛効果を発揮します。

 

セトアミノフェン

 アセトアミノフェンは鎮痛効果を持ちますが、前述したNSAIDsやステロイド抗炎症薬のような、抗炎症作用は持ちません。

 

 では、アセトアミノフェンが持つ鎮痛効果のメカニズムはどのようなものか。

  • 中枢神経系でのCOXの活性抑制
  • 中枢神経系における一酸化窒素合成酵素(NOS)の活性抑制
  • 内因性カンナビノイド受容体の活性
  • セロトニン作動性下行性疼痛抑制系の賦活

 などが考えられています。

 

(1)一酸化窒素合成酵素 NOS

 NOS(Nitric Oxide Svnthase)は、一酸化窒素(NO)を産生するために働く酵素です。これによって産生されたNOは、神経障害性疼痛の原因となると考えられています

 

(2)内因性カンナビノイド

 内因性カンナビノイドがその受容体と結合することで、シナプス前抑制が起こり、脊髄での二次侵害受容ニューロンへの情報伝達が抑制されることが分かっています。

 

 神経障害性疼痛や、炎症に起因した疼痛にも効果が認められています。アセトアミノフェンは内因性カンナビノイドの受容体を活性化させることで、鎮痛効果を発揮しているのではないかと考えられています。

 

(3)セロトニン作動性下行性疼痛抑制系

 下行性疼痛抑制系の中心は中脳中心灰白質(PAG)にあります。上位脳からの疼痛情報が伝達されると、PAGから①橋の背外側被蓋(DLPT)や②延髄の吻側延髄腹内側部(RVM)という経路を通り、脊髄後角に投射され鎮痛機能が働きます。

 

 セロトニンはこのPAG-RVM系を作動させ、鎮痛作用をもたらします。

 

 このように、アセトアミノフェンは中枢レベルでの鎮痛効果があると考えられていますが、その作用機序は完全には解明されていません。

 

 アセトアミノフェンを使用するうえで注意が必要な副作用として、肝機能障害が挙げられています。

 

てんかん薬、抗うつ薬

(1)抗てんかん

 プレガバリン(商品名:リリカ)と同じように、神経障害性疼痛片頭痛に対する鎮痛薬として有効とされています。

 

 その作用機序には以下のものが挙げられます。

 神経のシナプスには電位依存性のカルシウムイオンチャネルが存在します。抗てんかん薬は、このリガンド(特定の受容体に結合する特異的な物質)として結合することで、神経細胞内へのカルシウムイオンの流入を防ぎます。

 

 これにより、神経伝達物質であるグルタミン酸などの放出を抑制し、疼痛信号が伝わることを防ぎます

 

 そして、抗てんかん薬には、神経の興奮系(グルタミン酸系)の抑制と抑制系(GABA系)の賦活させる作用もあり、これにより疼痛信号を弱めることが可能になります。

 

(2)抗うつ薬

 抗うつ薬は、三環系抗うつ薬セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった種類があります。

 

 鎮痛効果を持つ薬はSSRISNRIで、セロトニンノルアドレナリンの再取り込みを阻害(=セロトニンノルアドレナリンの作用が延長)することで、下行性疼痛抑制系を賦活し、鎮痛効果を発揮します。

 

ピオイド鎮痛薬

 オピオイドは医療麻薬とその類似物質に分けられます。

 

 作用機序は、エンドルフィンによる作用と類似していて、中枢神経系のオピオイド受容体に作用することで強い鎮痛効果を発揮します。

 

 また、オピオイド神経伝達物質の放出を抑制したり、神経細胞自体の活動を抑制する作用ももっています。そのため、上行性の痛覚情報伝達を広い範囲で抑制することができます。

 

 さらに、中脳の中心灰白質(PAG)や延髄の吻側延髄腹内側部(RVM)に存在するオピオイド受容体を活性化させることで、直接下降性疼痛抑制系を賦活する作用も持ちます。

 

 強い鎮痛効果がある反面、悪心・嘔吐、鎮静作用、便秘・下痢などの胃腸障害や身体依存性といった副作用を持つため、適用は限られています。

 

 さて、今回は鎮痛剤の種類とその作用についてまとめさせて頂きました。詳細な作用機序等、まだまだ情報としては不足している点もあると思います。今後も随時更新していこうと思います。

 

 少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。

 

<文献>

 

(1)Gray A. Shankman .整形外科的理学療法 -基礎と実践- 原著第2版.医歯薬出版株式会社,2011.

(2)Michelle H. Cameron.EBM物理療法 原著第4版.医歯薬出版株式会社,2015.

(3)沖田実,松原貴子.ペインリハビリテーション 入門.三輪書店,2019.