動作中に椎体に加わる負荷 Part2:起居動作
椎体に加わる負荷 Part2 では、寝返りや起き上がり動作時の椎体負荷量に関する報告を紹介します。
椎体圧迫骨折(Vertebral Body Fracture:VBF)後の患者さんでは、寝返り動作や起き上がり動作時に強い痛みを訴える方が非常に多いですね。
寝返り動作では、体幹の屈曲や回旋により、椎体自体への曲げ応力や屈曲モーメント、回旋モーメントが加わります。そして、起き上がり動作では、徐重力位から抗重力へ変わることにより、大きな軸圧負荷が加わることになります。
これらのことからも、起居動作では椎体に大きな負担を強いることが予想できます。
では実際に同程度の負荷が加わるのか?
そして、それを軽減させる方法はないのか?
Part1と同様の方法を用いて、Rohlmannらは以下のように報告しています。
図中の指導のありとは、「体幹の筋群を等尺性収縮させることで、体幹を剛体のようにしたまま動作を行う」ような指導です。
指導なしの場合、歩行時に加わる負荷量(170%;A. Rohlmann et al., 2014)よりも大きな負荷が椎体に加わっていることが分かります。
さらに、側臥位↔背臥位では最大450N(約45.9kg)、側臥位↔腹臥位では500N(約51.0kg)、側臥位↔座位では800N(約81.6kg)の負荷がかかっていたとも報告しています。
このことからも、骨折した椎体の動きをいかに減らすかということが起居動作時のポイントと言えそうです。
したがって、正しいコルセットの装着や、腹筋群を同時に収縮させるブレーシング(Bracing)により脊柱を安定化させられるかどうかが臨床上重要になってくると考えられます。
VBFの患者さんは高齢者が多いこともあり、認知機能の低下や腹筋群の筋力低下が認められる方も多いので、コルセットの正しい装着方法についてしっかりと理解しておく必要があります。
さらに、座位からの立ち上がりおよび着座動作時の椎体負荷量についても報告しています。立ち上がりでは最大1000N(約102.0kg)、着座では最大900N(約91.8kg)の負荷がかかっていました。
立ち上がり・着座動作でも、起居動作と同様、独歩よりも大きな負荷が椎体にかかっています。しかし、上肢で動作をサポートすることでその負荷量を軽減させることができそうです。ただ、着座動作においては、アームレストを使用したほうが負荷が大きくなっています。これはおそらく、体幹の前傾が大きくなってしまうためであると考えられます。
立ち上がりや着座動作における上肢の位置も十分に考慮する必要がありそうです。また、体幹の前傾動作を少なくさせるような工夫も必要になります(座面の高さなど)。
起居動作は歩行動作ほど長い時間を行うものではありませんが、1回の負荷量は歩行時の負荷量を大きく超えるものです。特に急性期や離床開始直後などで、椎体の脆弱性が顕著なうちは、起居動作の回数自体を減らすようにしていくべきでしょう。
そして、ブレーシング技術の獲得やコルセットの装着方法については、床上安静の期間から繰り返し指導を行い、できるだけ安全に離床を進められるように配慮していくことが大切であると考えられます。
さて、ここからは、今回の研究を臨床に落とし込む際の注意点を考えていきたいと思います(Part1でも同様のことが言えます)。
まず、この研究の限界として、①対象者が少なく、統計学的に有意な差があったかどうかについては言及できないこと、②置換した部位の上下を椎体間固定していることが挙げられます。
①については、今後の報告が待たれるところですが、②についてはしっかりと考えておく必要があります。
椎体間固定を行うことで、置換された椎体にかかる力学的ストレスは保存的な治療を行うVBFと比べて減少していると考えられます。したがって、実際の起居動作では、今回の報告以上の負荷がかかっている可能性があります。
さらに、楔状変形をきたしているVBFでは、その椎体周りに生じる力学的ストレス(特に曲げ応力や屈曲モーメント)は変化している可能性があり、さらに椎体高さが減じることで、前縦靭帯や後縦靭帯などの張力も変化しているはずです。
以上から、保存的な治療を行うVBF患者に対しては、より大きな負荷がかかっていることを想定して進めていく必要があると考えられます。
【動作中に椎体に加わる負荷・シリーズ】
<文献>
A. Rohlmann, R. Petersen et al.: Spinal loads during position changes. Clin. Biomech. 2012; 27: 754-758.
A. Rohlmann, M. Dreischarf et al.: Loads on a vertebral body replacement during locomotion measured in vivo. Gait. Posture. 2014; 39: 750-755.